1.研究目的: 「対象喪失(object loss)」とは、愛情や依存の対象を失う経験であり、その種類としては、近親死や失恋、住み慣れた環境や地位、役割、さらには自分の誇りや所有物などがある。本研究はこのような喪失体験後も継続するであろう喪失対象との心理的関係や、喪失対象が残したモノの意味・機能について検討することを主目的としているが、本年度は特に以下に記す2つの実証研究を行った。 2.研究方法: (1)量的研究 ・調査目的→重大な喪失体験後の心理的反応段階について、喪失の種類・状況別に再検討する。また遺品や思い出の品が残された者にもたらす意味・機能についても検討する。 ・調査方法→調査会社のモニターを使用。オムニバス調査において質問紙調査への協力を承諾した日本全国の成人男女437名に郵送調査を実施。 (2)質的研究 ・調査目的→喪失対象が継続的にもたらす心理的影響や、喪失体験による生活上の変化について検討。 ・調査方法→調査会社のモニターを使用。オムニバス調査において面接調査への協力を承諾した大阪近郊の成人男女18名に個人面接調査を実施。 3.研究成果(現在までの分析で得られた主な知見): (1)喪失による回復過程は対象によって異なり、特に離別や身体機能の喪失は回復に多くの年月を要する。 (2)男性に比べて女性の方が、また遺品や思い出の品を処分しないで保持している人の方が、侵入心像傾向(喪失対象が残された者の思考や行動面に侵入し続ける傾向)が強い。 (3)思い出の品を保持し続けている人の方が、立ち直りが困難な傾向にある。 (4)思い出の品には、喪失者の心を支える機能がある反面、侵入心像傾向を強め、喪失からの回復を妨げるという逆機能も存在する。 (5)喪失体験によって多くの人が考え方や対人関係面で変化が生じたことを認めているが、特に否定的な変化があった人は回復に要する期間が長くなる。
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