1.研究目的: 「対象喪失」とは愛情や依存の対象を失う経験であり、具体的には近親死や失恋、住み慣れた環境や地位、自分の誇りや所有物などがある。本研究の主目的は、喪失体験後も継続するであろう喪失対象との心理的関係や、喪失対象が残したモノの心的機能について検討することであったが、本年度は特に以下に記す研究を行った。 2.研究方法: (1)量的研究 〓調査目的→昨年度の調査で「喪失体験から立ち直っていない」と答えた人に追跡調査を実施し、喪失体験後の心理的反応段階について、喪失の種類・状況別に再検討する。また遺品や思い出の品が残された者にもたらす意味・機能についても同時に検討。 〓調査方法→調査会社のモニターを使用。昨年度の調査で喪失体験から立ち直っていないと答えた人、または新たに喪失体験があった人208名に郵送調査を実施。 (2)質的研究 〓調査目的→喪失対象が継続的にもたらす心理的影響や、喪失体験による生活上の変化について検討。 〓調査(分析)方法→個人面接調査に協力して頂いた成人18名のデータを詳細に分析。分析方法は「修正版グラウンデッド・セオリー(M-GTA)」。 3.研究成果(現在までの分析で得られた主な知見): (1)生活に変化をもたらす要因について検討したところ、喪失体験からの回復に時間がかかる場合、あるいは喪失原因が自分にあると考える場合、心理面でより否定的な変化が生じることが示唆された。 (2)遺品の心的機能についてパス解析により検討したところ、遺品には残された者の心の支えとなる反面、回復を困難にするという逆機能が存在することが確かめられた。 (3)上記の質的研究におけるデータを、M-GTAによって分析した結果、予期悲嘆の有無がその後の悲嘆プロセスに関連すること、完全に回復している人は喪失によって得た教訓について言及し、喪失対象と新たな関係を形成することなどが見出された。
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