研究概要 |
本年度は、研究計画に基づき主に2つの観点からの実験および調査の実施を行った。一つは、架空人物の写真刺激を用いた他者選択の様相の検討である。既存の関係を有する人物のこれまでの選択手法では、社会的望ましさや、調査時点での対人関係に対する評価、感情などが反映される可能性を完全には除去できない。そこで、シナリオを用いた場面想定法を行った後に、男性8名ないしは女性8名(いずれも承諾を得て撮影した大学生。調査対象者との面識が全くないように、調査対象の地域とは異なる地域の大学生の写真を使用)の写真をその人物と特性をプロフィールとして呈示し、相互作用を持ちたいと思う人物から選択を行わせた。そして、その状況において自己が希求する情報の特質が異なるのかどうかを検討した。大学1年生113名を対象に調査を行った結果、以下の2点の結果が示された。第一に、実在の人物を対象に選択させた西村ら(2000)の結果と同様に、課題関連出来事時には客観的他者の選択、社会情緒的出来事時には情緒的他者の選択が、最も相互作用したい人物である初期の選択において顕著に認められた。第二に、低自尊心者は、社会情緒的出来事といった客観性を必要としない状況において、持続して客観的な他者を選択した。これは、先行研究(西村,2003)により、低自尊心者といった自己評価の低い人が自己に脅威となる客観的他者に固執する一方で、高自尊心者といった自己評価の高い人が状況に応じた適切な他者選択を行うことができると示されたことと一致する結果となった。なおこの結果は、2006年度の心理学関係の学会で発表予定であり、論文として投稿予定である。 二つ目は、ゲーム手法を用いた対人選択の様相の検討である。本研究では、説得・納得ゲーム(杉浦,2003)の手法を援用して、ゲーム状況における相互作用場面の観察、および自尊心の差異による対人選択の違いを検討した。大学生105名を対象に、実習形式で説得納得ゲームを行い、力動的な対人選択の様相の検討を行った。その結果、低自尊心者であっても、セッション内での成功経験を通して、高自尊心者との関わりを持ち、それが自己にポジティブな影響を及ぼす可能性が示唆された。なおこの結果の一部は、2006年度の心理学関係の学会で発表予定であり、論文として投稿予定である。 また、方法論の整理、昨年度の成果発表なども併せて行った。
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