今年度の研究計画として(1)ジェームズの心理学が日本語に翻訳されるにあたり特に強調されている部分の分析検討 (2)日本におけるジェームズ心理学の受容過程の解明 (3)ジェームズとラッドそれぞれのself概念の意味内容の比較検討 (4)上記2名と同時代の海外心理学者の著作、学説が日本国内でどのように訳されたのか分析検討する、という4点を挙げ、これらを並行して進めた。特に(3)の成果の一部は論文としてまとめ、近日中に発表予定である(裏面項目11)。また、(4)について、特にアレキサンダー・ベインに関する文献収集を重点的に行なった。ベインに焦点を当てたのは下記の理由による。研究代表者(鈴木)は元良勇次郎に関する文献収集の一環で8月に三田市立図書館(兵庫県)を訪問した折、偶然に、ベイン原著の未公刊の日本語訳文献の存在をしった。翻訳者は元良の三田時代の師である川本清一(化学者として著名な川本幸民の子)であり、ベインの"Mental Science"を「心理学」として訳したものであった。所蔵する日本学士院と一橋大学図書館にて原本を確認したところ、学士院蔵のものは草稿、そして一橋大学のものは文部省に提出された清書であり、それぞれの複製を入手、分析を行なっている。文部省の官吏であった川本が明治5年から8年のあいだに手がけた仕事と推測される。明治8年に文部省から刊行された西 周訳の『心理学』がタイトルに「心理学」が付いた最初の書とされていることからも重要な発見と考えられる。内容については、例えば川本が「自覚」という語を充てているところに、校閲者(西村茂樹か?)が「意識」に朱字で修正するなど、「自我」概念そして「自我」に関連する諸名称、概念の定着過程を考察するうえで極めて有益な資料であり、この分析も引き続き進めて行きたいと考える。
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