研究概要 |
作年度に続き,縦断的な調査により,小学生の幼少期の思い出について検討した。今年度は,思い出す出来事の時期,思い出す量の問題,出来事の語りの様子をもう少し詳しくみるとともに,子どもが思い出す内容をどうとらえているのかと子どもたちの現在の状況の関係について,新たな質問紙により検討した。その結果,昨年度の知見を支持するような結果を見い出すとともに,新たな傾向も見出しつつある。すなわち,自覚的に遡って思い出せる一番古い記憶は,3,4歳頃であり,その乳幼児健忘(3,4歳以前の出来事を意識的に思い出せないこと)の原因として,言語能力の欠如のみならず記憶能力や他の認知能力の発達が関係している可能性と,過去の想起の仕方に対象者間で共通するパターンがある可能性を見出した。 縦断的な調査より,乳幼児健忘に広範囲な認知発達上の変化が関与している可能性が示唆されたため,今年度は,横断的な調査も複数行い,幼児期における広範囲な認知発達上の変化の追究に努めた。第一に,3歳から6歳の子どもたちを対象に同年齢集団内でのコミュニケーションの取り方を検討したところ,この時期の各年齢間でコミュニケーションの取り方に大きな差があることがわかり,その成果を国際学会で発表した(Uehara,2005)。第二に,幼児期における共同作業の行い方を主に性差の視点から検討した。この調査結果について中間報告をまとめた(上原ら,2006)。この調査については,さらなるデータの蓄積と詳細のデータ分析が今後も必要である。 これまで,基礎的な認知能力の発達的変化を中心に追究してきたが,縦断的調査,横断的調査いずれにおいても,環境要因については十分に検討してこなかった。今後,環境要因の影響を視野に入れて,認知能力の発達的変化を検討し続けるとともに,縦断的な調査結果のまとめの作業に入りたいと考える。
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