研究概要 |
【研究目的】 本研究は、子どもに対して新奇な2種類以上の情報が同時に提示された場合に、一方の情報を探索した後、もう一方の情報を探索し、先に見た情報を修正し、新たな情報を付け加えながら複数の情報を統合していく経過について質的に検討した。その過程で、他者の表情が変化していく動画を提示し、次の表情を予測する過程を検討し、日米の児童の自己統制との関係についてビデオ撮影の記録に基づき行動分析を行った。さらに、日米の児童の自己統制の特徴を縦断的に検討することによって、これまでの西洋的な観点に偏った自己統制の理論を改善・発展させていくことを目的とする。 【方法】 1.自己統制を人間理解の指標とし、日米の児童の自己統制について全体で53時間(3180分間)のビデオ記録を分析した。 2.研究を遂行する上での具体的な工夫 (1)被験者は児童を対象とし、独自に作成した3種類の動物型の課題(双方的反応課題)を遂行した。 (2)自己統制尺度(検証尺度を含む)、デジタルビデオカメラ2台とワイヤレスリモコン (3)分析の視点 子どもの反応に対応した動きをする課題を用い、2種類以上の情報が提示された場合、複数の情報を知識構造の中に統合していく過程を検討し、自己統制との関係を検討した。 (4)表情変化の過程を動画で被験者に呈示し、被験者は、何を手がかりにして他者の表情変化を予測しているのかという課題を与えられる。さらに、表情の変化を予測した理由を質的に検討し、自己統制との関係について検討する。観察者は表情の経過をパソコンの動画で提示し、情動が変化する前に動画を止め、次の情動表出を予測させる課題を提示した。 【結果】 1.自己統制が他者の情動の変化を予測する能力の高さとかかわることを明らかにした。 2.日米の児童の自己統制の行動分析は、ビデオ記録のデータを共有した。ビデオ記録の分析データの共有により、自己統制の行動分析を国際的な視点から検討し、人間理解の指標の実現に貢献した。 3.本研究の結果から、日米ともに共通していた結果として、情動の変化の前ぶれの手がかりとして、瞬きの回数の増加があげられる。瞬きの回数の増加の時点で、情動の変化の前ぶれを予測し、情動認知が促されることが明らかにされた。 4.自己統制の過程において、(1)表情の後の変化を連続した流れで判断している,(2)わずかな表情の変化に敏感なほど、コミュニケーションが円滑に行われることなどを明らかにした。 【考察】 本研究の中で最も注目されるのは、日米のいずれの児童も情動の変化の予測においては、視線の方向だけではなく、瞬きの回数が増加し、小刻みになった段階で次の情動表出を正確に予測していたことである。本研究は,(1)ビデオ記録データの共有,(2)専門性を生かした連携,(3)ビデオ記録データの分析処理を実施した。日米の研究体制によるネットワークを生かし、データを共有し、専門性を生かした連携によって、理論化を試みた。日米の研究チームとの国際的なネットワークを通して、心理学理論の発展に寄与してきた。日米の研究協力体制により、行動分析の発展を通じてさらなる日米の行動分析の推進に寄与することが可能である。 なお、本成果は、米国のデラウェア大学およびハーバード大学と連携・協力して実施された。
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