研究概要 |
青年期は自己の再構成が重要な課題であり,児童期までにいったん確立された自己の構造が大きく変化する時期であると言われている。そしてそのような自己の再構成の時期には,自己愛的な状態に陥りやすいことが指摘されている。このような自己愛的な人格を中心とした青年期の心理的特徴を探ることが本研究の目的である。 第1に,自己愛的な青年の大学生活における様相を検討した。小塩(2002,2004)によって示された自己愛傾向の2成分モデルの枠組みを用いて,自己愛的人格と大学生活不安との関連を検討した。結果から,自己愛全体が低く「注目・賞賛欲求」が優位な者ほど,全体的な大学生活不安を感じる傾向にあることが示された。また大学生活不安の下位側面に注目すると,自己愛全体が低く「注目・賞賛欲求」が優位な者ほど日常生活不安を感じる傾向にあり,自己愛全体の高低にかかわらず「注目・賞賛欲求」が優位な者ほど評価不安を感じる傾向にあることが示された。 また第2に,自己愛的な人格の持ち主の特徴である,自己に対するやや非現実的な肯定的感覚の様相を検討するために,Big Fiveパーソナリティを測定する項目を用いて,自己評定と友人による評定を測定し,自己愛的な人物がどのような自己に対する記述を行う傾向にあるのか,そして現実生活において友人からどのように認識されているのかの差異を検討した。その結果,自己愛的な人物は自分自身を知的で優しい人物だと捉える一方で,友人からは必ずしもそのような人物だとは認識されていないことが明らかにされた。 これらの結果は,自己愛的な青年が,非常に健康的でポジティブな自己認識を有しているにもかかわらず,他者からは必ずしもそのように認識されていないことを示唆しており,自己愛的な青年の社会適応を考慮する上で重要な視点を与えるものだと考えられる。
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