昨年度は、感情的思考を反映するAAT(Affect-related Automatic Thought;AAT)と理性的思考を反映するTCT(Task-related Controlled Thought;TCT)という二つの思考が感情状態に及ぼす影響について、クラスター分析と階層的重回帰分析を用いて検討し、AATがネガティブ気分の予測因子として重要であることが明らかとなった。本年度は、こうした研究の成果をふまえ、認知療法の効果性の特徴を、これらの変数により記述することを目的とした。認知療法の対照群として、近年注目されるマインドフルネストレーニングを用いた。マインドフルネストレーニングを用いた講義と認知療法の主要な技法である思考記録表を用いた講義の効果を、気分、AAT及びTCTを用いて比較検討した。136名の大学生を同数に振り分け、思考記録表を記入する講義とマインドフルネストレーニングの一つである食べる瞑想を行う講義を行い、その前後で各指標を測定した。その結果、いずれの技法を用いた講義もネガティブ気分の改善とポジティブ気分の上昇、及びAATの減少を示した。しかし、食べる瞑想の前後ではTCTが減少するのに対して、思考記録表の前後ではTCTの上昇傾向が示された。これらの結果から、思考記録表は理性的思考により感情的思考と感情の関連を客観的に検討することでネガティブ気分を減少させるのに対して、食べる瞑想は、理性的思考も感情的思考も弱めることから、理性的な検討でなない、異なるメカニズムにより効果を発揮することが示唆された。この両者はいずれも認知行動療法の一技法と考えられているが、特に理性的思考に及ぼす影響に違いが見られることが明らかとなろた。こうした違いは、第2世代と第3世代の認知行動療法の違いとして理論的に語られる内容と一致しているが、その効果のプロセスについて、今後より詳細に検討する必要がある。
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