今年度は、「あきらめ」と「希望」に関する文献的研究を行うこと、高齢者を対象としてあきらめという現象の構造を探索的に捉えることを目的とした。地域社会に居住する46-83歳の初老期および老年期の128名を対象として、「あきらめ」をもたらす事象にはどのようなものがあるか、その事象を体験した後どのような心理的な変化がみられたのかについて、自由記述法による質問紙調査を行った。 対象者がどうしようもなく思い切らなければならなかった事象として挙げられたのは、死別、離婚、病気、介護、家族・友人関係での軋轢、進路の変更、退職などであった。また、これらの事象を体験した際、無気力、希死念慮、人間不信、体調不良(不眠、微熱が続く、食欲不振)、涙もろくなるといった症状が生じた。そして現在においては、懐かしく思える、これでよかった、他者に感謝している、いろいろと体験したからこそ今の幸せがある、これも運命である、仕方がない、今でも時々思い出すと涙が出る、繰り返し気分が沈む、思い出したくないなどの回答がみられた。 さまざまな事象に対してあきらめを体験していること、あきらめなければならない事象を体験した折は、うつ病によくみられる症状が現れることが認められた。また、あきらめの様相として、懐旧・感謝・甘い未練が伴いつつ自分のこととして引き受ける「あきらめ」、つらい事象の意味づけが変わる「価値の転換」、合理化や強い未練が伴ったり運命だと考えるようにしたりする「両価性」、まだ悩みや悔やみの最中にある「煩悶」、そして「うつ状態」などの存在が示唆された。 来年度は面接を通して、あきらめに至るまでの心境の移り変わりを中心に検討する予定である。
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