今年度は、死別後の不適応を予測する有効な因子を探索することを目的に、遺族本人によるリスク評価と、遺族の精神健康との関連性を検討した。 本研究の調査対象は、ホスピスにて亡くなられた患者312名の家族である。148家族180名から回答が得られ、回収率は52.9%であった。本研究では、178名からの有効回答を分析対象とした。調査内容として、先行研究に基づき、遺族のリスク評価のための評価因子として26項目を作成した。また、遺族の精神健康の状態を測定するため、(1)GHQ日本版の28項目版と、(2)CES-Dの短縮版を用いた。 結果として、出現頻度が最も高かったリスク関連事象項目は「患者と良好な関係であった」(93%)であり、最も低かった項目は「患者の臨終に間に合わなかった」(6%)であった。リスク評価の各項目得点について、GHQ-28による評定での健康不良群と健常群の間で、t検定を用いて比較したところ、26項目のうち5項目で有意差が認められた。Pearsonの積率相関分析の結果では、26項目のうち10項目がGHQ-28とCES-Dの両方と有意な正の相関関係にあった。 今回、自らの健康不良、未解決の過去の喪失体験、家族や周囲のサポートの欠如、患者の死に対する心の準備状態、強い不安が、遺族の精神健康の状態に関係していることが明らかとなり、これらの事象がリスク評価において重要な評価因子である可能性が示唆される。また、相関分析の結果に注目すると、自責傾向、家族関係、怒りやいらだち、患者への依存、精神疾患歴といった項目も評価因子の候補として挙げられる。これら10項目のうち、強い不安や自らの健康不良は、末期患者の家族に比較的多く見られる事象であると考えられる。それに対し、精神疾患歴、家族や周囲のサポートの欠如、未解決の過去の喪失体験は出現頻度が低く、高リスク遺族に特徴的な事象と言えるかもしれない。
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