フラストレーション状況は、"怒り"と呼ばれる情動を惹起し、攻撃行動をはじめとする不適応行動を誘発する要因のひとつと考えられており、多くの心理学的研究の対象となってきた。しかしながら、フラストレーション状況における脳活動については、多くのことは知られていないのが現状である。そこで本研究は、オペラント学習課題における消去試行を利用して、実験的なフラストレーション状況を設定し、実験課題遂行中の被験者の行動反応と前頭葉における局所脳血流の変化を、近赤外分光法(Near-InfraRed Spectroscopy ; NIRS)を用いて計測することを目的として行われた。 平成16年度では、まず予備的検討として、成人男性3名を被験者として標準的なオペラント課題を遂行しているときの前頭葉の局所脳血流の変化をNIRS装置を用いて検証した。その結果、オペラント反応に随伴して強化子(報酬)が与えられる場合は、反応に随伴せずに報酬が与えられる場合と比較して、前頭葉の酸素化ヘモグロビン濃度がより増加することが示唆され、報酬の認知と行動反応の関係について、NIRS装置を用いた検討が可能であることが示唆された。 つぎに、獲得試行における強化密度の違いが、その後の消去試行(フラストレーション状況)における前頭葉の局所脳血流反応に及ぼす影響について、成人男性4名を被験者として検討した。強化密度が100%(連続強化)での報酬獲得経験ののちに消去試行が導入された場合には、獲得試行から消去試行への切り替えに伴い、前頭葉の一部において一時的な脱酸素化ヘモグロビンの増加が認められた。一方、50%、30%といった強化密度の低い部分強化後の消去試行においてはそのような変化は認められなかった。これらの結果から、獲得期における強化密度の違いが、その後の消去事態における前頭葉の反応に違いをもたらすこと、また、これは被験者の情動反応の大きさに対応するものである可能性が示唆された。
|