本研究は、高次の知覚処理過程、潜在的短期記憶やプライミング効果といった知覚現象が関係すると考えられる注意・記憶系の表象で行われる知覚処理レベルにおいて、視覚・触覚間でのクロスモーダルリンクの作用がみられるか否かについて検討することを目的としている。本年度は、短期記憶系の処理が関与されるといわれている知覚プライミング効果を取り上げ、プライム刺激とターゲット刺激が視覚・触覚のそれぞれ異なるモダリティに提示された際に、ターゲット刺激の形態パタン弁別課題において視覚・触覚間のクロスモーダルプライミング効果がみられるかについて検討した。刺激として2種類の大きさを持つアルファベット文字型のパタン刺激を用い、プライム刺激を視覚(もしくは触覚)、ターゲット刺激を触覚(もしくは視覚)で提示した。プライミング効果の時間特性を検討するために、プライム・ターゲット間の提示時間のずれ(SOA)を200msと700msの2種類に設定した。被験者の課題は、ターゲット刺激の弁別であった。実験の結果、視覚から触覚、触覚から視覚へのいずれの場合においても、プライム刺激がターゲット刺激と同じ文字で提示された試行の反応が促進され、視覚・触覚間のクロスモーダルプライミング効果が観察された。しかし当初の予想に反して、 SOAの違いはここでのプライミング効果に影響を及ぼさなかった。また、当該試行のターゲット刺激が次試行のプライム刺激となる"ターゲット-ターゲット"手続きを用いて同様の実験を行った結果、視覚におけるポップアウトプライミングとして知られている現象と類似した履歴効果(hysteresis)が、視覚・触覚間のクロスモーダルプライミングにおいても観察されることが示された。
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