マウスやラットの社会的学習場面における高周波音声の役割を検討することが、本研究の目的である。本年度は本実験を始めるための準備を中心におこなった。まず、体温測定のための簡易実験ボックスを試作し、マウスを用いて予備実験をおこなった。中毒症状や電撃というストレスを刺激個体に与え、そのストレス臭を被験体のマウスに呈示した。その結果、被験体がオスの場合もメスの場合も、体表面温度の上昇傾向が見られた。この結果は、マウスの社会的学習場面においては他個体からの嗅覚刺激が重要な役割を示すという本研究者の従来の研究結果を支持するものである。また同時に、高周波音声という聴覚刺激の影響を調べる手段として、体表面温度の測定というテクニックが利用可能な手段であることを確かめることができた。 次にラットやマウスの高周波音声を録音するための実験機器を用意した。録音には超音波測定用マイクのバットディテクタ、高速サンプリングが可能なA/D変換PCカード、高速のPCカード処理が可能な携帯用コンピュータを用いた。しかし、超音波成分をハードディスクに記録しようとすると、負荷のためPCがハングアップすることが多く、安定したデータ収集法としてはPCによる直接録音は問題が多いことがわかった。そのため、高周波音声に関する1次データの収集には、タイムエキスパンション方式で遅くした信号をDATに録音する方法を用いることに変更した。 また予備的な観察から、マウスは約60kHzの周波数で高周波音声を出すことが確認できた。今後引き続き、この周波数閾の音声を社会的学習場面でも発しているかどうかを確認していく。
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