1.本研究は、台湾総督府が先住民対象の初等教育機関・蕃童教育所を整備していく政策過程および先住民の対応を検討し、国民教育の普及過程で先住民族が直面する諸問題を考察するものである。本年度は、補足的な調査を行いながら、とくに台湾総督府の就学「督励」策の諸相とこれに対する先住民側の対応および就学の実態解明に努めた。 2、戦前の雑誌・新聞の関連記事の目録作成を継続的に進めた。主な調査誌は、『台湾日日新報』『社会事業の友』『実業之台湾』等。主な所蔵機関は、国立国会図書館、国立台湾大学附属図書館等。また、台湾先住民統治に関わった元台湾警察官の個人文書の調査を行い、遺族関係者に聞き取り調査を行った。 3.新たに得られた知見は以下のとおり。「五箇年計画理蕃事業」(1910〜1914年)と称する先住民制圧戦争の終結後も相次ぐ武装蜂起の制圧に総督府が腐心するなか蕃童教育所の設置が進むが、1910〜20年代を通じて、就学普及の基盤となる施策は限られていた。むしろ蕃童教育所の設置と不可分に進行した武力制圧と生活基盤の動揺の中で、先住民は総督府の施策の枠内で活路を探らざるをえない状況に追い込まれていき、ここに就学者増大の基盤が醸成されていく。就学者の増加とともに、教員の人材や運営経費をめぐり教育所拡充の現実的基盤の脆弱さが顕わとなる一方で、就学・不就学をめぐる先住民の葛藤や緊張関係も高まることとなる。従来の研究では植民地政府が蕃童教育所を通じていかに「同化」「日本化」を先住民に強要したかという点に関心が集中しがちであったが、実証研究に基づくこれらの知見が研究史にひとつの貢献をなしうると考える。 4.これらの研究成果をふまえて博士論文「日本植民地下の台湾先住民教育史研究」をとりまとめ、学位を取得した。また、成果の一部を論文にまとめて、共著『帝国と学校』(昭和堂、2007年4月刊行予定)として公刊予定である。
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