本研究は、在日韓国・朝鮮人の戦後の生涯学習実践史を明らかにすることを目的としている。従来の在日韓国・朝鮮人教育研究は、民族学校や日本の公立学校を対象とした学校教育研究に偏重していた。しかし現実には、多くの在日韓国・朝鮮人が日本の学校出身であり、民族教育に触れる機会は少ない。そうした中、学校以外の場での学習機会が、在日韓国・朝鮮人としての主体性の形成や自己実現に大きな影響を与えている。本研究は、学校教育形態のフォーマル教育から、運動組織や学習グループによるノン・フォーマル教育までを対象として、その総体を在日韓国・朝鮮人の「生涯学習実践」として捉える。さらに生涯のライフコースやジェンダーをも視野に入れ、各ライフステージに応じた学びのありようを検討の対象としていく。 初年度である今年度は、主に以下の作業をおこなった。 第一に、戦後の在日韓国・朝鮮人の民族組織の制度化と社会運動の歴史について整理した。戦後民族教育の文脈を、民族組織運動との関連において分析し、その歴史的性格を検討した。 第二に、近年の在日韓国・朝鮮人市民運動や学習活動について、聞き取り調査をおこなった。こうした組織は朝鮮半島の本国と直結した組織から距離をとり、日本社会にねざした活動をおこなう点に特徴が見られる。さらに近年では、東アジア圏を視野に入れた活動のグローバル化の動きも盛んである。こうした新しい組織が、従来の民族組織運動をどのように捉え、どのようにして脱却を図っているのかについて、聞き取りをおこなった。 今年度の作業により、諸組織の歴史および相関図が明らかになりつつある。来年度も継続的に聞き取り作業をおこない全体像を把握していく。さらにこの作業は団体関係者自身の自己形成の歴史を知る作業にもつながっており、来年度はより個々人の生涯学習史に焦点を当てた、インテンシブな聞き取り調査へと移行する予定である。
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