最終年度である本年度は、前年度までに検討した「ポスト学歴社会」という概念を再検討し、これをふまえてインタビュー調査を改めて実施した。概念の再検討とは、「ポスト学歴社会」論をグローバリゼーション論のなかに位置づける作業である。すなわち、労働過程のグローバルな再編にともなって、若年労働力需要やスキルの育成プロセスが変容することで、地位達成がかつてのような可視的なプロセス、それゆえに予測可能なプロセスではなくなったという社会背景に注目した。こうした社会変化は、日本もイギリスも同様であるが、イギリスでは、職業資格制度と労働市場の結びつきを再強化することで、地位達成プロセスの可視性を保持しているのに対して、日本では、コミュニケーション能力といった極めて抽象的なスキルの形成が論じられるばかりで、スキルの獲得を職業の獲得に結びつける機制が作動していないという違いが明らかとなった。 こうした比較社会学的な概念的検討をふまえて、日本におけるフリーター(15名)を対象に生活戦略にかんするインタビュー調査を再度実施した。これによって明らかとなったのは、イギリスのニューディール政策のような強制的なプログラムを実施しない日本では、1)若者たちが具体的なスキル形成の目標を定めにくいにもかかわらず、2)スキルの獲得という規範意識は極めて強いこと、3)社会保障への信頼が極めて希薄であること、それゆえに、4)将来にたいする漠然とした不安が昂じていることである。 上にも述べたように、日本においてはグローバル化にともなう労働過程の再編とならんで、スキルの獲得を職業に結びつける取り組みがなされてこなかった。こうしたフリーターの状況を考慮に入れるならば、どのようなスキルを身につければどのような職業につくことができるのかを可視化し実現する仕組みが必要であることが明らかとなった。
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