研究概要 |
現行教育条件下における小学生の奥行き空間認識の様相((1)鉛直・水平の世界観→(2)俯瞰的鉛直・水平の世界観→(3)前見取図的世界観→(4)見取図的世界観→(5)数学的遠近法の世界観と設定)を立方体の描画調査から検証した。この結果,中・高学年になっても本来獲得すべき段階の世界観に到達できていない子どもが多いことが分かった。そこで,いろいろな教育に多大な影響を与えるものの,未だその発展の要因が明らかとされていない(2)→(3)の獲得段階(3次元空間の認識の獲得段階)に焦点をあてた。その結果,3年生段階で獲得が可能であることが認められた。一方,この段階への発展の要因について,地面(基底面)に対する上下左右前後及び重ねによる奥行きのとらえの獲得が前見取図的世界観の獲得につながるという仮説をたてた。仮説の妥当性の検証として,3年生段階においてこれらのとらえの獲得が可能である教材を開発し,実践を試みた。開発した教材(3種類)により,3年生を対象として教育実験を行った結果,これらのとらえを獲得できることがわかった。さらに,描画調査によりこれらのとらえを獲得できた子どもの多くは前見取図的世界観に到達すること,すなわち仮説の妥当性が示された。これらのことより,小学校3年生を対象として,地面(基底面)に対する上下左右前後及び重ねによる奥行きのとらえを獲得させる教育を行うことにより,前見取図的世界観の獲得が可能であることが明らかになった。さらにこれらの実践及び先行研究を踏まえ,特に現在不十分である,図形領域の中の「平面」及び「空間」に絞って小学校段階のカリキュラムの開発を試みた。この際,現在見落とされている,子どもの認識,数学の発展,前時代の矛盾の克服,科学技術の発展を見据えて行い,さらに,ユークリッド幾何→射影幾何→位相幾何と発展してきた数学の各重要点を同時並列的に扱うことを意識した。 本研究では,前見取図的世界観を獲得できる,具体的な教材及び教育実践案の提案を行い,それをもとにカリキュラムを開発した。すなわち妥当性のあるカリキュラムの一端を開発できたといえる。このことは,現在の算数・数学教育の問題点を打開する一つの方策を実証的に示すことができたものであると考える。
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