ジョン・デューイの芸術教育思想の形成期は3つの時期に分けられる。シカゴ大学附属学校の設立とカリキュラム開発を行った時期、コロンビア大学において哲学科と教育学科で教鞭を取った時期、美術批評家であるアルバート・バーンズとの交友の深まりとともに『芸術論-経験としての芸術』を執筆した時期である。今年度の研究では、初期の思想形成に関して、シカゴ大学附属学校における工作教育のカリキュラム開発に適用された教育原理について明らかにした。デューイの工作教育論は、従来の実利主義的な工作教育から、子ども一人ひとりの心的成長を目的とする工作教育への転換を意図するものであり、シカゴ大学附属学校のカリキュラムにおいて工作活動は孤立しておらず、子どもの内外の生活を統合する基盤となる役割を担い、諸教科と連続的な結びつき持っていた。さらに、本年度の研究では、後年のデューイの教育的特性をもつ芸術論の形成において、バーンズが貢献した内容は何であるかを、両者の往復書簡の内容分析を通して明らかにした。バーンズがデューイに与えた影響は、芸術界への参入、美術鑑賞の方法、形式論、批評論によって示されるものである。
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