研究概要 |
Kirillov-Reshetikhin加群(以下,KR加群)とはアフィン量子群上の有限次元既約表現のうち特に性質の良いものであり、結晶基底、すなわち、"絶対零度q=0における基底"を持つと予想されている。しかしながら、加群が結晶基底を持つことを示すのは容易なことではなく、多くの準備が必要となる。今年度はまず予想の信憑性を確認すべく、以下のことを行った。なお、これらは内藤聡氏(筑波大学・助教授)との共同研究である。 (1)Simply-lacedアフィン量子群のKR加群が結晶基底を持つという仮定の下で、twistedアフィン量子群の完全結晶(perfect crystal)をディンキン図形のグラフ自己同型を用いて構成した。 (2)上記(1)で構成した結晶を、"0-vertex"を取り除いた部分ディンキン図形に対応するLevi部分代数に関して、分解したときの分岐則を(一部を除き)決定し、それがKR加群の結晶基底の分岐則に関連した公式から導かれるものと一致していることを確認した。 (3)上記(1)の結晶に関する組合せR行列、及び、エネルギー関数の存在を示した。 (4)上記(1)の結晶がデマジュール加群の結晶と同型であることを示した。 この(2)〜(4)の結果から、(1)で構成した完全結晶は、twistedアフィン量子群のKR加群の結晶基底が持つと予想されている性質を、ほぼ全て備えていることが分かった。それゆえに、(1)で構成した完全結晶はKR加群の結晶基底と同型になるであろうと予想している。また、ここで構成した結晶は、尾角-Schilling-Shimozonoによって定義された"virtual crystal"と一致していることも証明することができ,それゆえ,上記の結果は尾角-Schilling-Shimozonoの結果の精密化・拡張にもなっている。
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