本年度の研究でもっとも大きな成果は、P-進一意化を持つ曲線(Mumford曲線)の積に対して次のことを証明したことである: (1)任意の自然数nに対して、ゼロサイクルのChow群をnを法としてみた群から、エタールコホモロジーへのサイクル写像が単射となること。 (2)Brauer-Maninペアリングと呼ばれるChow群とBrauer群の間のペアリングにおいて、左核がChow群の極大可除部分群に一致すること。 先行する研究において上の(1)(2)が知られている多様体は、すべて幾何種数がゼロとなるものであった。特に、(2)においては極大可除部分群は自明となる場合だけが考察されていた。本研究の特徴的なことは、考えている多様体の幾何種数がゼロでないことである。特に、(2)においては非自明な極大可除部分群が現れる。従って、問題の左核にも非自明な群が現れるのであるが、その左核がぴたりと極大可除部分群に一致するというすっきりした結論が得られた。また、3次元以上の多様体について(1)(2)が知られている例は非常に乏しかった。上の結果ではMumford曲線の個数は任意でいいため、ここでも新しい例を提示することが出来る。 さらに、Chow群のねじれ部分の構造をMumford曲線の周期で明示的に書き表す公式を得た。Chow群を具体的に計算をすことは、おおむねいつも困難なのであるが、周期という具体的な対象で、しかも非常に計算しやすい形で表すことができており、今後の研究においても有用であろうと思われる。 最後に、これらの結果を応用して、大域体上の曲面上の非自明なゼロサイクルに関するMurreとRamakrishnanの最近の結果を拡張することが出来た。これについてはさらなる発展が見込まれる。来年度以降の課題である。
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