今年度は、代数体上の多様体の高次Chow群に関する研究を行った。具体的な成果として、代数体上の曲線の積の高次Chow群の構造に関するKahnの予想を部分的に(可除な群を法として)証明することができた。 Kahnの予想は、曲線の高次Chow群に関するBlochの予想を曲線の積に拡張したものである。 Blochの予想は、 Raskindによって可除な群を法として証明されている。我々の結果とKahnの予想の関係は、Raskindの結果とBlochの予想の関係に並行的である。 この結果の証明は、曲線の積の高次Chow群に関するRaskind-Spiessの研究を利用した上で、次の二つの(曲線に関する)結果を組み合わせることで行われる。 第一のものは、昨年度までに得られた局所体上の多様体に関する次の研究結果である:局所体上のgoodまたはsemi-stable reductionを持つ曲線を考える。すると、基礎体の有限次拡大に付随する高次Chow群(の主要部)のノルム写像は全射になる。(なお、この結果は、昨年度行った類体論に関する研究でも中心的な役割を果たした。) 第二のものは、次の「ハッセのノルム定理の高次Chow群における類似」である:代数体上の曲線を考える。その高次Chow群の元が、基礎体の有限次拡大に付随する高次Chow群のノルム写像の像に入るための必要十分条件は、全ての完備化でノルム写像の像に入ることである。(上記した咋年度の結果から、局所的な条件はほとんど全ての素点で成立することに注意。なお、ハッセのノルム定理は体の乗法群に関する類似の定理である。) 最後に、井上玲氏・小西由紀子氏との共同研究で、代数曲線のヤコビ多様体を等レベル面に持つような代数的完全可積分系で新しいタイプのものを構成することが出来た。
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