本年度は、交付申請書に記した研究計画の内、対称積の母函数に関する研究について進展があった。 まず、有向グラフの場合について、グラフそのものの対称積の母函数は必ずしも有理的でないことを示した。一方、グラフ内のループのなすグラフの対称積の母函数は有理的であること、またいわゆるグラフのゼータ函数はその中で単純ループを数えることにより得られることが分かった。 これの一般化として、辺にラベルを付けた場合などについて考察し、ある設定において有理性が成り立たないことを示した。いくつかの場合については有理性のかわりに保型性が成り立っていることが観察されたが、一般にどうあるべきか、という点については今のところ不明である。 さらに、自己対応付き曲線の対称積の母函数について、然るべき環における有理性の問題を考察した。まず有限位数の自己同型の場合については、いくつかの例について有理性を示した。これは一般に有限位数の場合に成り立つのではないかと予想される。一方で、無限位数の自己同型については有理性が成り立たないことを示す例を与えた。非有理性の証明には正標数への還元を用いる。 関連する話題として、モティーフ的測度の環の構造についても研究を行なっており、特に双有理幾何学との関係について調査中である。今のところ明確な結果は得られていないが、ザリスキ分解やファノ多様体の間の双有理変換(サルキソフ・プログラム)との関連に興味深いものがあるのではないかという感触を得ている。
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