研究概要 |
今年度の研究では,2つの結果が得られた.1つは,測度の強二倍条件を満たす測度距離空間で,Cheeger型エネルギー型式を用いて定められた内部距離が元の距離と一致する,ということである.これはリーマン多様体や曲率を下から押さえたアレクサンドロフ空間でのディリクレ型式に関する事実の拡張であり,Cheeger型エネルギー型式が空間の幾何的情報を失っていないことを意味する.他のエネルギー型式,例えばKorevaar-Schoen型エネルギー型式ではこの性質は成り立たず,特にこのエネルギー型式では空間を見分けることができない(つまり,空間の幾何的情報を失っている).また,測度の強二倍条件はRanjbar-Motlaghによって定義されたものだが,これは測度距離空間でリッチ曲率の下限に相当する条件を与える試みとも関係する,興味深い条件である. もう1つの結果は,CAT(0)空間の,バナッハ空間をも含むような拡張と,それを用いた,これまでCAT(0)空間で知られていた事実,特にCheeger型ソボレフ空間に関する結果の拡張である.この拡張された条件は距離関数のある種の凸性によって定義され,直径の小さいCAT(1)空間(例えば,球面の凸集合)や,ある種のバナッハ空間を含む.従って,この条件を満たす空間はCAT(0)空間より弱い凸性しか持ち得ないが,工夫することで同様の議論が適用できる.例えば,このようなバナッハ空間を含む状況では角度を考えることはあまり意味がないが,それでも弧長に関する第一変分公式の類似物を証明することができる。また,このような空間への写像に対するディリクレ問題(つまり,エネルギー最小写像の存在問題)を解くことができ,これは今まで知られている中で最も広い対象を含んでいる.
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