研究概要 |
本研究の目的は、服部晶夫氏、桝田幹也氏のトーラスV-多様体の同変楕円種数を計算し、その商特異点からの寄与の間に成り立つ関係式を、特性数および多重扇の組み合わせ論的なデータを用いて組織的に記述することにある。本研究では現段階において以下の結果が得られた。 1.重み付き複素射影空間のspin-c Dirac作用素の指数とFourier-Dedekind和の幾何学的解釈 トーラスV-多様体の特別な場合に当たる重み付き複素射影空間におけるspin-c Dirac作用素の指数を計算し、その商特異点からの寄与の間に成り立つ関係式がFourier-Dedekind和の相互法則と等価であることを証明した。 2.L.Alvarez-Gaume, E.Wittenの重力異常項を用いた11次元スピン多様体のスピンコボルディズム不変量の構成 L.Alvarez-GaumeとE.Wittenは場の量子論における重力異常項が12次元で相殺することを直接計算によって示した。本研究では、この現象の応用として11次元スピン多様体に対する符号数不足指数型の微分同相不変量を構成した。特に整数を法として考えるとスピンコボルディズム不変性を持つことを証明することができる。特に11次元レンズ空間に対する不変量の値は高次元Dedekind和の相互法則の類似物を満たすことを証明した。 3.古田幹雄氏、亀谷幸生氏の第1ベッチ数が正である場合の10/8-不等式の応用 4次元スピン多様体の符号数と第2ベッチ数に対する10/8-不等式は、古田幹雄氏、亀谷幸生氏により安定ホモトピー型Seiberg-Witten不変量を用いて第1ベッチ数が正の場合に対し一般化された。本研究では、第1ベッチ数が正である3次元多様体に対する符号数不足指数型のホモロジースピンコボルディズム不変量を構成し、4重カップ積の構造を仮定することで、不変量の定義域が拡張可能であることを証明した。今後はC.Manolescuによって構成された安定ホモトピーSeiberg-Wittenスペクトルの理論を用いて上記の議論を展開することが課題である。 4.Miraculous cancellation formulaを用いた8k+3次元スピン多様体のスピンコボルディズム不変量の構成 L.Alvarez-GaumeとE.Wittenによる重力異常項相殺公式はK.Liuにより楕円種数のモジュラー性を用いて8k+4次元スピン多様体に一般化された.本研究ではmiraculous cancellation formulaを応用することにより8k+3次元スピン多様体に対して、11次元多様体の符号数不足指数型のスピンコボルディズム不変量を一般化した。今後は楕円種数のモジュラー性を応用することにより,8k+3次元のレンズ空間に対する不変量の相互法則の無限族を一挙に捉えることが課題である。
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