数理物理や工学等の分野において、過去の履歴に依存するような非マルコフ型の確率微分方程式(確率関数微分方程式)を考えるほうが自然な場合が多い。本研究では、確率関数微分方程式に対して、マリアヴァン解析を適用し、解の分布に関する密度関数の性質を調べることを目的としている。マルコフ型の確率微分方程式の場合、方程式の係数がなすベクトル場から生成されるリー代数に関するヘルマンダー条件の下で、密度関数の正則性が導かれることは既によく知られたことである。計画初年度にあたる平成16年度は、連続な確率関数微分方程式、中でもドリフト項のみが過去の履歴に依存するような確率関数微分方程式に対して、密度関数の正則性を保証するための係数に関する条件を、ウィーナー空間上のマリアヴァン解析を経由して調べた。そこで得られた結果は、上述のヘルマンダー条件に類似するものであり、ドリフト項が密度関数の正則性に与える影響を明らかにしたものである。 密度関数の正則性を考えるとき、マリアヴァン共分散行列の非退化性が問題となる。それはマリアヴァン共分散行列の二次形式に対するラプラス変換の減少度合いを調べることに対応する。その際、2001年に小松孝氏(大阪市立大)との共同研究の中で得られた「連続セミマルチンゲールに関する基本評価式」が重要な役割を果たす。また、これまでの方法では判定することができなかったが、今回得られた条件により密度関数の正則性が判定されるような例も挙げている。
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