前年度に引き続き、大型な連立1次方程式に適用できる並列計算向けの前処理の研究を行った。その中で特にSherman-Morrison法という手法による近似逆行列前処理の有効性に着目した。この手法による前処理は一定の性能が認められているが、前処理を計算する課程が逐次処理なのでPCクラスタなどの並列計算システムに実装することが困難である。本年度の研究では、このSherman-Morrison法を用いた前処理をPCクラスタ上で部分的な並列計算を行えるような実装法を研究し、その性能の評価を行った。この実装法ではすべてのCPUが常に同時に稼動するとは限らないが、一部のCPUだけが同時に稼動することが可能である。本年度購入した研究室のPCクラスタでCPUを6台利用して今回提案した手法を実装すると、3倍から5.8倍程度の台数効果を発揮した。さらに、この手法は前年度提案したNewton法による前処理やMR法による前処理と比べてさらに連立1次方程式の残差ノルムの収束を改善できることを確認した。 従来のSherman-Morrison法の論文での検証では、並列計算のことはほとんど触れられていなかったのに対して、本研究では、その実装を並列化することにより計算を高速化したことに新規性がある。 また、Sherman-Morrison法による前処理は、元の係数行列の対角成分を変化させてもその性能が大きく変わらないことも確認した。このことは、係数行列の対角成分のみが異なる数組の連立1次方程式であるShift方程式に有効であると考えられる。従って、今後の展望はこの並列化に対応したSherman-Morrison法前処理をShift方程式に適用し、その効果を検証することである。
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