平成18年度の研究実績・成果の概要は以下の通りである。 (1)過年度までに開発した相変化現象に対する数理モデルは、各相の自由エネルギーと、相を分離する効果をもたらす自由エネルギー障壁を組み合わせた自由エネルギーポテンシャルを構成し、その緩和過程を表現する勾配系偏微分方程式モデルである。今年度はこのモデルを拡張し、各相の自由エネルギーに重力ポテンシャルに起因する項を組み込むことで、相変化の重力の影響を表現した。その結果、特に保存系の自由エネルギー緩和によるモデルに基づく計算機シミュレーションでは、密度の小さい相が泡状に分離し浮遊する相分離パターンを再現することができた。これは重力場が影響する各種の相変化現象に広く応用できるものと考えられる。またこの種のモデリング手法は重力場だけではなく応力場や電磁場の影響下での相変化モデルを構築する際にそのまま利用できるものである。 (2)相変化現象のモデルとして、セルオートマトンモデルならびにモンテカルロシミュレーションモデルとの比較を試みた。後者のモデルでは、相分離パターンや多成分モデルにおけるミセル組織の形成などが再現できたが、フェーズフィールドモデルとの対応についての厳密な解析は今後の課題として残った。ただし、3次元シミュレーションを簡易に実行するにはフェーズフィールドモデルを始めとする偏微分方程式モデルと比較して優れていることが実証されたことから、本研究での成果を今後も発展させる計画である (3)3次元の相変化現象の計算機シミュレーションの基礎モデルとしては分子動力学法によるものも有効であるため、本研究との関連でシミュレーションの実行や理論的な解析を試みた。しかし、これについては非平衡統計力学の理論がまだ整備されていない現状では十分な成果を得ることができなかった。
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