研究概要 |
前年度の研究におけるアプローチは,連立偏微分方程式を常微分方程式に帰着すると非線形項が現れ,解くことが非常に難しくなってしまった.この反省を踏まえ,平成17年度の研究では,次の研究を行った. 上限確率過程と下限確率過程の導入 一般化シェアリングサービスを行う2バッファシステムは,互いに相関がある確率過程のモデルとして考えることができる.優先サービスモデルは双方向の相関ではなく,単方向の相関を持ち,解析を容易にしていた.本研究では,一般化シェアリングサービスモデルを挟み込む上限過程と下限過程を導入した.新たに導入した過程は,(i)元の過程のパラメータで容易に構成ができ,(ii)それぞれの過程はある操作を繰り返すことで元の確率過程に近づくという性質を持つ.現在,単調性について証明を与えることができたが,収束性はシミュレーションによる確認しか行っていない.分布の解析を行うためには,マルコフ連鎖の他にもう1つの背後過程(マルコフ連鎖にはならない)を与えた下で単一の流体モデルが解析できる必要があるが,これは来年度の課題である. 複数の到着流と異なる廃棄閾値を持つ単一待ち行列モデルの解析 現在のインターネットは電子メールのように多少の遅延を許すアプリケーションに対しては十分な能力を持つが,TV会議のように多容量で遅延許容量が非常に小さいアプリケーションに対してはまだ不十分である.DiffServは次世代インターネットにはかかせない通信品質保証の枠組みとしてRFC2475で規定された.しかし,品質保証に必要なパラメータ決定方法は,具体的には書かれていない.そこで本研究では,DiffServの数理モデル(3つの到着流とそれらに対応する3つの廃棄レベルをもつ単一バッファ)を与え,Network calculusの議論を用いて最大遅延時間,最大待ち行列長,最悪出力バースト性を評価した.解析を簡単にするために,到着流と廃棄レベルは2つに減らし,サービス方式をFIFOから優先型に置き換えた.Network calculusは,普通の待ち行列理論とは異なり,決定論的な最悪値の評価を与える.その代わり,出力過程が入力過程と同じクラス含まれるため,ネットワークの解析が容易である.本結果は最悪値の評価であるので,そのままネットワークの解析に用いると最悪値の積み上げの影響が強くなり,過剰評価を与えてしまう.これを回避するために,大偏差定理を用いた呼損率に基づく議論と本研究の結果をマージする必要がある.これは今後の課題である.
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