研究概要 |
本年度は競争系とよばれる連立系の遷移層の形成と運動について研究を進めた.競争系は数理生態学にあらわれるモデルで,同じ領域内に生息する2種の生物の個体数密度を記述するものである.2種の生物の競争が比較的激しい場合に系は双安定となる.以下のような結果を数学的に厳密に証明した. 成果 拡散係数を微小とすると,解はきわめて短時間のあいだに遷移層を形成する.いったん形成された遷移層は次の運動をはじめるが,この運動は,界面の平均曲率と移流の項の和で表される,ある界面方程式に支配される. この成果はカラリ氏(トロント大),ヒルホスト氏(パリ南大),俣野氏(東大)らとの共同論文として投稿中である. また本年度は,競争の非常に激しい状況下における2種の生物の境界面の形成とその挙動についても研究を進めた.競争系において競争係数を非常に大きくすると,2種の生物のすみわけの境界が現れる.拡散係数を微小にしたときとは異なり,この境界の近傍において解は限りなく角に近い形状をもつ.本研究では,この角の形成とその後の挙動を扱う.角は非常に短時間内に形成された後,その挙動はある自由境界問題に支配されるが、この一連の挙動を数学的に厳密に証明した. この成果は2つの部分にわけられ,若狭氏(早稲田大)との共同研究として京大数理研で,飯田氏(岩手大),カラリ氏(トロント大),三村氏(明治大),柳田氏(東北大)との共同研究としてチューリッヒ大学で口頭発表をおこなった.
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