本年度は双曲的群の自分自身の双曲境界への作用の研究として、その境界が0次元のときに限ったときには、以前の私の結果とほぼ同様な結論を導きだせた。メインの結果はその接合積のK-群の計算公式とイデアルの構造定理である。境界が0次元であることは、境界がカントール集合であることと同値であり、群の性質としては「ほとんど(virtually)自由群」または「有限指数の自由部分群をもつ」ことと同値である。しかし、証明のキーポイントはこれらの性質をもつ有限生成群は群グラフのBass-Serreの意味での「基本群」で与えられることであった。特に有限群からなるHNN拡大はこれらの群の典型例であり、この場合についての境界作用の接合積についていくつか面白い例がわかった。 また、本年度はVoiculescnが定義した摂動理論的エントロピーについても研究を行った。彼はヒルベルト空間上の作用素の摂動理論において重要な役割を果たした作用素の組に対する不変量(以下、Voiculescu不変量)を用いて、作用素環上の作用のエントロピー(以下、摂動理論的エントロピー)を定義した。このエントロピーは知られている数少ない結果から大変興味深いものであるが、計算の困難さから定義された当初から進展がまったくなかった。今回、私は自由群の境界作用の摂動理論的エントロピーの完全な値を求めることに成功した。これはVoiculescuが原論文で上げていた問題のひとつの部分的な回答であり、更なる発展が期待できる。この結果と合わせて、自由群をポアソン境界上の調和測度を使って表現したユニタリー表現からなるユニタリー作用素の組に対するVoiculescu不変量と私の以前の結果である自由群の正則表現からなるユニタリー作用素の組に対するVoiculescu不変量が一致することもわかった。これらは表現として互いに同値ではないが、同じ作用素環を生成する。これら表現については、更に研究を進めていくべき問題であろう。以上のVoiculescu不変量と摂動理論的エントロピーについての結果は2004年10月30日〜11月4日にカナダのバンフ研究所で行われた国際研究集会「The Structure of Amenable Systems」で講演を行った。
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