今年度は主に双曲的群の無限遠境界上の調和測度の軌道同型についての引き続き研究を行った。これは、京都大学の泉正己氏とオスロ大学のSrgey Neshveyev氏との共同による。以前、我々は双曲的群の調和測度の軌道同型の比集合について調べていたが、今回、完全に計算することに成功した。これにより、軌道同型には決してIII_0タイプは現れないことがわかる。これは自由群及びそれを含む特殊な融合積の形で表される離散群に関する私の以前の結果の拡張にもなっている。これにより双曲的群の無限遠境界作用を軌道同型の意味で完全に分類したことになる。すなわち、以前より知られた結果により、この作用はエルゴード的かつ従順であり、III_0タイプ以外は唯一つに定まるからである。また双曲的群にねじれがなければ、対応するフォンノイマン環接合積についても完全に分類ができたことになるので、私の研究課題である双曲的群の無限遠境界作用の作用素環論的研究のフォンノイマン環サイドの分類は決着したことになる。これらの結果は京都大学数理解析研究所の研究集会「離散群論と作用素環」において研究報告を行った。この我々の研究結果は、Israel Journal of Mathematicsに掲載が決まっている。 またVoiculescuの摂動理論に関連した不変量についての研究も引き続き行う。この不変量はヒルベルト空間上の有界線形作用素の組に対する不変量であり、摂動理論において重要な役割を果たしている。更に、Voiculescuはこの不変量を用いて、フォンノイマン環の群作用に関するエントロピーも定義している。このエントロピーのメリットはひとつの自己同型写像に対するだけではなく、有限生成群の生成系に対して定義できることである。しかし、計算の困難さから具体的な計算例がまったくなかったが、今回、私は自由群のポアソン境界作用に関するエントロピーの計算に成功した。
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