研究概要 |
伝播速度が異なるような非線形波動方程式系の初期値問題を考える.大前提として,非線形項はnull条件を満たすと仮定し,さらに次の3つの付加条件を考える: (H1)2次の部分は発散形式で書ける. (H2)2次の部分は未知関数の導関数のみを含む. (H3)同じ速度を持つ成分の導関数同士の相互作用も全てnull形式で表される. 非線形項の全ての成分が,上記(H1),(H2),(H3)のうちのどれかひとつ(同一)の付加条件を満たしているならば,小さな初期値に対する(時間)大域解が存在することが知られている.さらに(H1)と(H3)の組み合わせに関しても大域解が存在することが分かった(横山和義氏との共同研究). 平成17年度に引き続き,平成18年度も(H2)と(H3)を満たす非線形項の組み合わせと,(Hl)と(H2)の組み合わせに対して,球対称解の存在に関する研究を行った.平成17年度に得た結果では,技術的問題によりnull形式で書かれる項を含めることができなかった.今年度は,特性方向の導関数に対する評価を考察することにより,null形式の項も含めて扱うことに成功し,より自然な結果を得ることができた(投稿準備中).他には,Alinhac条件の下では大域解が自由解に漸近しない場合があることも示した(久保英夫氏との共同研究;掲載決定済). なお、ここで得た特性方向の導関数の評価を考えるという手法は球対称解以外にも有効であり,これまでに知られていたのとは別のアプローチでnull形式の項を扱えるようになった。既知の手法と比べると,通常の時間・空間変数に関する微分作用素と,回転方向の微分作用素のみが評価に必要で,特にスケーリング作用素を用いる必要がなくなるのが,この方法の利点である(久保氏との共同研究;投稿準備中).
|