研究課題
本年度は、1990年にO.PenroseとP.C.Fifeによって提案された相転移現象を記述する1つのモデル(Phase Field Model)の時間無限大での挙動を中心に解析を進めてきた。本モデルの理論的な解析が難しい1つの理由として熱方程式の拡散項がΔ(1/θ)であることが挙げられる。更に、熱流∇・(1/θ)に斉次ノイマン境界条件を課したシステムは全熱量を保存する(時間に関して不変な量という意味)系となり、秩序変数の値を強制的に制限したモデル以外では特殊な場合を除いて解の一意存在性すら未解決であった。そのような未解決なモデル(空間次元は1次元から3次元に制限)に対して、時間大域解の一意存在性を示すだけでなく、時間無限大での挙動と定常解の安定性を証明することに成功した。実際には、Sobolevの埋め込み定理・楕円形方程式に対する解の正則性・放物形方程式に対する解の正則性などの現在に至るまでの結果を適切に利用することによって解の一意存在性を証明することができた。また、定常問題は全熱量を保存する時間発展の方程式系における時間微分に関する項を削除した問題と一致することを示すとともに、鈴木貴教授(大阪大学基礎工学部)が提唱した双対変分原理を適用することによって、その定常問題に対する解の力学的安定性は保存される全熱量を1つのパラメータとして持つ非局所項を含んだ秩序変数に対する楕円形方程式の解の漸近安定性によって議論されることを証明した。Phase Field Modelの定常解の力学的安定性が秩序変数を支配する変分構造のみで議論することができることを示した結果は過去には存在しない。また、本研究の成果は非局所項を含む楕円形方程式の漸近安定性を議論することがしばしばPhase Field Modelなどの非線形放物形方程式系の力学的安定性の議論を可能にする場合があることを示している。
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GAKUTO International Series, Mathematical Sciences and Applications 20
ページ: 66-83
近畿大学工学部紀要人文・社会科学篇 34
ページ: 87-111