昨年度の研究結果を受けて、本年度はPenrose-Fifeタイプの相分離モデルに対する時間大域解の一意存在性とその定常解の安定性について議論するとともに大域的アトラクターの構成方法に関する1つの手法として定常解を利用することができるのではないだろうかという結論に至った。何故ならば、我々が取り扱っている相分離モデルの時間無限大での挙動の解析の困難さは、熱方程式の拡散項が強非線形であるという事実から生じている。にもかかわらず、鈴木貴教授(大阪大学基礎工学部)の研究グループによって我々が考察している相分離モデルの定常解の個数が有限個であるという事実が今年度明確に証明されたからである。また、新しい課題として、秩序変数に浸透圧(Signorini)境界条件を課した相分離モデルに対する時間大域解の一意存在性を示すことに成功した。次に、昨年度から我々は地域経済動向を記述するための数理モデルを非線形微分方程式系で提唱し、その解析を関数解析学及び凸解析学の理論を用いて進めている。今年度は、非線形拡散を含む偏微分方程式系に対する時間局所解の一意存在性を証明することができた。また、オリジナルの常微分方程式系モデルに対しては定常解の一意存在性を示すとともに、その定常解の安定性について議論することができた。実際、唯一の定常解は漸近安定であり、結果として大域的アトラクターはその定常解1点で構成される。吸収集合の存在を示すのではなく、定常解の個数とその構造を精査することによって間接的に大域的アトラクターの存在を示すことに成功した。
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