本研究は位置天文的な観測手法によって重力レンズを観測し、これまでの観測と異なる新たな情報を得ることを目指すものである。研究の第3年次にあたる本年度は、位置天文学的な手法で重力レンズ研究を行うモデルケースとして昨年度観測したPKS1830-211など3つの重力レンズQSOについて、イメージング解析を進めている。現在のところ過去の結果と比べて位置の系統的な動きは検出されていないが、今後も大学連携VLBIネットワーク等で追観測を行い、位置変化の検出を目指す。 一方、VERAで観測したメーザー源における位置天文重力マイクロレンズの探査も行っており、今年度は銀河系内の星形成領域W49Nについて、水メーザー源の解析を行っている。位置天文マイクロレンズによると思われる有意な位置変動はこれまでのところ観測されていない。関連して、太陽系天体による位置天文重力レンズ効果を正確に補正する遅延追尾ツールを引き続き開発しており、これによってVERAの位置天文計測精度の向上に成功している。具体的には銀河系外縁部の星形成領域S269の水メーザー観測において、5.3kpc相当の年周視差をSN20以上で検出することに成功し、年周視差計測の世界記録を樹立した。また、前記の星形成領域W49Nにおいても、年間6mas/yrの銀河系回転運動の計測に成功したほか、10kpc相当の年周視差の検出にも成功するなど、VERAを用いた位置天文計測において世界をリードする成果を得ている。
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