研究概要 |
今年度は、主にX線衛星XMMと「すざく」を用いて銀河団ガスの観測を行った。 1,XMMを用いていくつかの銀河団の温度構造を測定した。温度構造が、系統的に銀河団の外側で低下していることを見いだした。温度構造は、本研究の目的である金属量の測定を精度良くおこなうために不可欠である。加えて、温度構造による力学進化と金属量の測定による進化の考察は、お互いに相補的である。これらについては、2つの論文にまとめた。 2,XMMの高性能分光装置(RGS)を用いて、銀河団の外側の高温ガスの探査をおこない、その物理状態を考察・議論した。RGSによるX線吸収線とX線CCD検出器による輝線の測定を同時に用いることで、高温ガスの物理状態を精度良く測定できた。いくつかの銀河団(Coma, M87)の外側には、0.2-0.4keV程度のガスが広く(10Mpc近い空間スケールで)分布している兆候を見いだした。これは、宇宙の構造形成シミュレーションで予想されているmissing-baryonであるかもしれない。この結果は、Takei et al.としてApJに投稿中である。 3,平成17年度の7月に打ち上げられた「すざく」衛星を用いた銀河団観測の提案をおこなった。また銀河団の解析に必要な検出器のレスポンスやバックグランドについて較正をおこなった。特に、Abell2052銀河団の観測・解析をおこない、銀河団内での鉄・珪素・硫黄の分布を調べた。鉄・珪素・硫黄の組成比は、同様に中心集中していることを確認した。またその組成比は、太陽組成比と矛盾ないものであった。さらに、この銀河団の外側にも、低温のガスが広がっている兆候を見いだした。興味深いことに、この放射成分の金属量は大変小さい。星生成による金属汚染や重力収縮にともなう加熱を受ける前の始原ガスに近い成分が見えてきたのかもしれない。この結果は、平成18年3月の天文学会で報告した。 4,遠方の銀河団を多波長で観測するプロジェクトに参加し、「すばる」望遠鏡による観測をおこなった。これらは、遠方の銀河団をこれまでにない感度で測光し、メンバー銀河の分布を探るものである。このプロジェクトの中では、研究代表者はX線データの解析を担当した。可視光によるメンバー銀河の分布とX線によるガス分布を比較し、その化学進化を議論した。
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