近年の弦理論に於ける主要なテーマの一つに、5次元反ドゥジッター時空、5次元球の直積空間(AdS(5)×S(5))中の超弦理論とN=4超対称性を持つ4次元ゲージ理論・共形場理論(CFT)の双対性であるAdS/CFT対応がある。この研究に於いては、超重力近似を超える研究・超対称性を破る状態の解析が重要となっている。この方向では、S(5)中に大きな角運動量を持つ粒子の周りの励起を記述する(pp-wave極限)弦理論を考えることにより、新たな可能性が開かれ、さらに、マクロな弦の場合への拡張では、超対称性を大きく破る状態の間にも精密な対応が見出されている。この対応の背後には、弦/ゲージ理論双方の可解構造があることも明らかとなり、大きな進展を見せている。しかし、マクロな弦の場合の研究に於いては、その重要性にも拘らず弦理論側の解析は殆ど古典的であった。 本年度、佐藤は高エネルギー加速器研究機構の藤博之氏と共に、このようなマクロな弦を背景とした超弦理論の量子化を研究した。弦を記述するGreen-Schwarzシグマ模型の1ループ量子有効作用を大きな角運動量の展開で求める手法を開発し、それを用いて弦のエネルギーの補正の主要項を閉じた表式で求めた。さらに、ゲージ理論側の結果と比較し、パラメータ依存性が整合していることを示した。また、量子有効作用の形は、AdS(5)×S(5)の対称性及びマクロな弦の持つ漸近的超対称性により大きく制限され、簡潔な表式にまとまることを示した。具体的に求めた有効作用はその一般的な表式と整合していることも確かめた。これらの結果は、現在執筆中の論文にまとめている:"Quantum Fluctuations of Rotating Strings in AdS(5)×S(5)".
|