CPの破れの起源は素粒子物理学において解決されていない問題のひとつである。中性B中間子がふたつの荷電π中間子に崩壊する過程(B→π+π-)では、高次の弱い相互作用の効果のために、直接的CPの破れという現象が起きる可能性がある。この現象は、素粒子物理の標準理論の枠内でCPの破れを説明する小林・益川理論によって予言されている。また、強い相互作用による位相のずれを測定することができる可能性があるので、実験的にも理論的にも大変興味がある。本研究は高エネルギー加速器研究機構で行われているBファクトリー実験(Belle実験)において、B→π+π-事象についてのCPの破れの大きさの測定を行った。 この測定のためには、B中間子が崩壊する位置を100μm以内の精度で測定する必要があるために、シリコンバーテックス検出器(SVD)を使用する。そのために検出器のアライメント、崩壊位置決定の性能評価、長期安定性を徹底的に調べ、ハードウェアとソフトウェアの管理・維持を行った。その結果、必要な位置分解能を十分な精度で長期間一定に保つことに成功した。 この成果をもとに、B→π+π-崩壊でのCPの破れの測定をおこなったところ、直接的CPの破れを4σの有意性で測定できた。また世界で初めて、この崩壊における強い相互作用の位相に対しても制限を加えることができ、強い相互作用のQCD理論に大変有用な実験的測定値を与えることができた。
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