ビームテストにおけるデータを元にシミュレーションの改良を行い、再現性のよい結果を出せるようパラメータの調整を行った。それを用いて衝突型加速器実験に使用可能なデザインの最適化を前年度に引き続き行なった。前年度では、現実的なコストで有効範囲を広く取るために、輻射体である石英をタイル状に並べ、その片側面に光を検出する光電子増倍管をつける形状を基準とし、チェレンコフ光の性質を利用することで個々のカウンタの配置を最適化することを行った。結果、どのタイルに対しても最低限20psの時間分解能が達成できるデザインを構築した。衝突点に一番近いタイルの長さを短く、離れるにつれてしだいに長くするようにした。この方式では、タイルを短くすれば時間分解能が向上するが、その場合、全体の光検出器の数が増えコストの増大を招くため、個々のタイルの形状を変更し、サイズを変更しないで時間分解能を向上させることを目指した。タイルTOFでは、光発生時での時間のばらつきは数ps程度と少ないが、伝播の途中で光検出器に対する波面が広く、光の密度が少なくなるため、光子が光検出器に到達する時間に統計的なふらつきが生まれ、時間分解能の向上が制限される。そのため、波面を揃えるように、輻射体を光検出器側が底面となる台形にすることを考案し、シミュレーションによって検証を行った。しかし、荷電粒子に対する有効面積を減らすことのない輻射体では、時間分解能の向上する入射条件が限定的であり、個々のタイルを効率的に並べることができないことが分かった。生産コストを考慮すると、四角形のものが最も現実的であると結論する。 また、TOF検出器としての時間分解能の限界を探るため、光検出器正面からの入射に対するビームテストを行った。その結果、石英厚4mmの輻射体のときに約5psの時間分解能が得られた。実現できたTOF検出器としては世界最高性能である。
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