本研究の目的は、弱く束縛した不安定原子核の構造と反応を統一的に記述する試みを行うことである。これに関連して、今年度は以下に記す研究実績を得た。 1.原子核の四重極能率と変形パラメーターの関係に関する考察を行い、中性子過剰核のように表面領域が大きい場合に有効な新しい関係式を導出した。 2.3体模型を用いて16C核の構造を記述した。この模型を用いて16C核の四重極励起エネルギー、遷移強度、半径、分解反応に関する実験データを統一的に再現することに成功した。 3.3体模型を用いたハロー核の記述を行い、その3体波動関数を精査した。特に、双中性子相関とBCS-BECクロスオーバー現象との関連性を議論し、一般的にハロー核において2つの中性子が空間的にコンパクトな形状をとり核表面付近に存在することを明らかにした。 4.重イオン散乱でよく使われる二重畳み込みポテンシャルにおいて、核子交換効果に対する新しい近似法を提唱した。この近似法は系が重い場合に成り立っものであり、その近似の妥当性を数値計算によって確かめた。 5.r-プロセス元素合成におけるニュートリノ-原子核反応に対する環境電子の効果を議論した。これには環境電子による遮蔽効果およびパウリ原理の効果が含まれるが、双方の効果とも反応断面積を減少させることを明らかにした。
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