前年度に引き続きUVフィルター前処理を施したPHMC法アルゴリズムの実装と計算効率の研究を行った。前年度には計算結果が正しいことを確認したので、次に実装において計算効率の向上の余地のある部分に注目した。 UVフィルターの計算には大規模疎行列の指数関数が必要になるが、前年度までは効率を犠牲にして正しい結果を出すよう高次のパデ近似を用いていた。近似の打切り誤差の公式を用い、パデ近似とテイラー近似、またクリロフ部分空間法による近似で精度一定に保った場合の計算量を実際のQCD配位の上で比較した。この結果テイラー近似による方法が同じ精度で計算量は最も低くなった。 つぎに、1フレーバー部分をPHMC法により計算する際に必要になる、補正行列の平方根の計算の部分の効率化を行った。前年度までは大規模疎行列の平方根の計算にテイラー展開を用いていた。精度を保障するため平方根の2乗が元に戻るかどうかを確認してテイラー近似を打ち切るようにしていたため、計算量は2倍となっていた。H17年度は、クリロフ部分空間法とテイラー近似の計算量を比較した。この結果、クリロフ部分空間法が2倍近く効率が良いことが分かった。効率向上の理由は、精度の保障のため2度平方根を計算する必要がないことである。 以上の改良の後、UVフィルターのパラメーターと多項式近似の次数を変化させて、PHMC法全体の効率をUVフィルターを施さない場合のPHMC法と比べた。現在数組のパラメータで比較を行っている。現在分かったことは、精度一定の下で、UVフィルターのパラメータを大きくしていくと多項式近似の次数を減らすことができるが、もっとも次数が低くなるUVフィルターのパラメータが、PHMCアルゴリズム全体の最も効率の良い点ではないことが分かった。実際に最も効率の良い点はクォーク部分からの分子動力学の力の大きさが最も小さくなる点であった。 H18年度は引き続きデータの採取を行い、結果を論文にまとめたい。
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