研究概要 |
本年度は自己重力系・長距離力系の統計力学の解析として,宇宙膨張を含む系と含まない系の性質の解析に従事した. 宇宙膨張を含む系の問題として,宇宙の大規模;構造形成の問題が存在する. 本年度は大規模構造を形成するシナリオのうち,特にLagrange的記述を用いた流体力学的描像に着目した.その中で,近年提案された圧力を考慮したモデルを考察した.圧力を考慮したモデルを数値的に非線形段階まで解き,過去の修正理論との対比や線形近似の有効性を議論した.結果として圧力で修正理論の起源を十分には説明しきれない事,Lagrange的記述の線形摂動は準非線形段階の発展まで有効であるという点を見い出した.また,Lagrange的摂動論の三次の摂動解を導出した他,Lagrange的記述による大規模構造形成の摂動論的アプローチに関してレビュー論文を執筆した. 一方,宇宙膨張を含まない系に関しては,二通りの解析を行った.一つは自己重力多体系で,ほぼ球対称に粒子を分布させて,速度をゼロとした初期条件のもとでの時間発展である. 時間発展の後,ポテンシャルに拘束された粒子に着目して速度分布を求めると,ガウス分布ではうまく適合できない準安定状態が長時間存在する.この速度分布は,ガウス分布を等しい重みで重ねあわせた分布が一番よく適合する事が示された.もう一つは,統計的アプローチによる新たな逐次近似の手法を開発したことである.エントロピーを最大にする安定な平衡分布の導出の際,我々が開発した手法では,相転移点付近でも短い回数の逐次近似で安定な平衡分布を表す分布関数を導出する事が可能となった.例として我々が過去に提案したSGRモデルの解析を行い,我々が導出した平衡分布は,システムの緩和の結果として至る状態である事が確かめられた.
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