研究概要 |
本年度も昨年度に引き続き,まず光源,測定系,試料作成器の開発・改良を行った.光源については球面ファブリーペロー光共振器による「光帰還」による半導体レーザーの発振スペクトル狭窄化をほぼ完成させた.特に評価手法として自己遅延へテロダイン検波という手法の他に,実際にTm^<3+>という不純物イオンの低温下における均一幅の測定を自由誘導減衰分光法によって実時間上で行った.この測定から今回開発した光源の線幅がわずか数キロヘルツになっていることを明らかにした.高分解能誘導ブリルアン利得/損失分光法においては周波数変調法を新たに導入し,弾性波による散乱スペクトルをこれまでになく高感度に取得することが可能となった.これにより高分解能特性と高感度特性の両立ができた.固体水素は温度上昇に対して非常に敏感であるので入射光強度をあまり強くすることができない.そのため,この高感度特性は本研究において本質的に重要なファクターである.試料作成装置については固体水素の液相加圧成長法による加圧(30〜40気圧)に十分耐えうる大型のセルを設計した.高分解能分光においては結晶分域が複数存在するとスペクトルの純度が大幅に悪化するが,今回設計した新型セルではほぼ単分域の結晶を作成できることを確認した. 本年度は量子固体のように格子の非調和性が強い結晶において予想される低エネルギー領域の光散乱スペクトルに対する知見を広く得るため,さらに量子常誘電体と呼ばれる格子非調和性の強い系に対しても自発散乱実験を行った.その解析の結果,これらの結晶における光散乱スペクトル形状の温度依存性が,分子間衝突を伴う「フォノン気体」と光子との相互作用によってよく理解でき,かつ光散乱プロセスがフォノン気体に対する「クヌーセン数」によって明確に特徴付けられるいくつかのクラスに分類されうることを明らかにした.
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