近年、生成技術の進歩によりカーボンナノチューブの品質が格段に良くなり、カーボンナノチューブ1本1本の物性を測定することが可能になりつつある。1本のカーボンナノチューブをソース電極とゲート電極の間に置き、ゲート電圧を制御することによりFET動作する素子も現実に作成されている。また、カーボンナノチューブの非線形光学効果を使ったデバイスも開発されつつある。 これらの素子の物性解明を理論的に行うことは非常に重要であり、また実験家からの需要も高い。これらの素子において物性を決定する要素の中で一番本質的なことは外部からゲート電極によりナノチューブの電位をコントロールすることである。しかし、このように試料にかかる電位を一定に保ちながら精度よく第一原理計算を行う手法は皆無である。本研究課題のナノ構造体の物性解明にはこれらの手法は必須であることから、初年度にあたる今年度は電位一定の拘束条件を与えた元で行う第一原理計算手法の開発を行った。 構造の安定性まで議論するためには、系の自由エネルギーを正しく定義する必要がある。我々は系の自由エネルギーを定義することから出発し、自由エネルギーの変分問題としてポアッソン方程式を導出し、グリーン関数を用いてポアッソン方程式を解析的に解くことに成功している。このグリーン関数は裸のクーロン力に電極に誘起される鏡像電荷の効果も取り込んだ形になっており、ゲート電極の影響を正しく考慮することが可能である。現在は来年度に実際のカーボンナノチューブを用いた計算に適用するために、コーディングを行っている。
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