2種類の誘電体膜を周期的に重ね合わせて多層膜を形成すると、多層膜内の干渉によって特定の波長領域の光は多層膜を透過できない。この波長領域をフォトニックバンドギャップと呼ぶ。多層膜の周期性が乱れたとき、フォトニックバンドギャップ内に鋭いスペクトルを示す透過領域が生じる。これを局在モード(または透過モード)という。局在モードの振動数に共鳴する励起子をもつ結晶を多層膜内に導入すると、局在モードは励起子との相互作用によって励起子ポラリトンとして振る舞い、ポラリトン分散を反映した離散的な局在モードスペクトルが現れることが期待される。本研究では次のような試料を作製して局在ポラリトンモードを観測した。 2枚の誘電体多層膜を互いに向き合わせ、それらの間の隙間を波長程度にする。隙間が存在することで誘電体多層膜の周期性に乱れが生じ、フォトニックバンドギャップ領域に局在モードをもつようになる。この隙間に融液浸透法によって薄膜結晶を導入することで、目的とする試料を作製する。今年度はアントラセン結晶を隙間に導入して、上述した試料を作製した。 作製試料を10Kにして、励起子近傍領域の透過スペクトル及び反射スペクトルをそれぞれ測定した。測定の結果、それぞれのスペクトルには多くの離散的な鋭いモードが観測された。またそれぞれのスペクトルは、互いに直交する2種類の偏光によって明瞭に分離することができた。これはアントラセンに起因する偏光性であるが、それぞれの偏光において、各モード波長から2種類のポラリトン分散が得られた。このことはバルクアントラセン結晶の分散とそれぞれ一致し、良質の薄膜結晶が作製されていることを示している。さらに本補助金によって購入した窒素レーザーを用いて、試料を強励起すると、非常に強く鋭い発光ピークが現れた。これはレーザー発振の可能性があり、次年度の研究によってさらに詳細に調べる予定である。
|