有機低分子材料は、発光デバイスの材料として注目され、新規材料の合成からデバイス構造の検討まで幅広く研究が行われている。本研究では、材料合成やデバイス設計の指針を与えるために、蒸着条件が発光特性に及ぼす影響について検討を行った。発光特性としては発光スペクトル、量子収率、発光寿命などの温度依存性を評価し、製膜条件が影響を及ぼすメカニズムにまで踏み込んで考察を行った。その結果、アゾメチン色素では、結晶相の自由励起子と欠陥に束縛された束縛励起子からの蛍光が混在し、複雑な温度依存性を示していることが分かった。アゾメチン色素では既に蒸着条件により複数の凝集状態を形成し、それぞれ異なる蛍光特性を示すことが分かっているが、実際に結晶化を促進させ、欠陥を減らすと温度依存性は単純になることも確認できた。またIrを含む金属錯体の蒸着膜では、最低励起状態がそれぞれ異なる寿命を持つ三つの準位に分離し、量子収率は一定で寿命だけが強い温度依存性を示すことを明らかにした。この物質では分子間相互作用は小さく、溶液状態の性質を良く保ったまま固体化することも分かった。しかしながらこの物質でも結晶化を促進させると異なる発光特性が現れることも明らかになった。これについては現在も検討中であるが、金属錯体で固体状態での結晶化と発光特性に関する研究例は皆無に等しく、近年盛んに行われている高効率有機EL材料の製作条件に大きな影響するため、重要な課題であると考えている。
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