本年度は、摩擦現象の基本を記述するための理論構築を行った。 その第一は、固体間の摩擦現象の基本であるエネルギー散逸の機構を理解するために、連続弾性体近似を用いた厳密に解ける摩擦のモデルの構築である。最も簡単な系として1次元の周期的変調を持つ弾性体を考え、その弾性体に対して1つの不純物ピンに依るピン止めを導入し、系に初期条件として与えた一様な並進の運動エネルギーの散逸の様子を解析的に調べた。その結果、ピン止め力の弱い領域では動摩擦力が一定となるパラメタ領域が存在することが分かった。また、その際に並進の運動エネルギーが熱エネルギーへと変換される過程の解析も行った。これらの結果は、エネルギー散逸という基本現象を、動摩擦現象に関連させて解析出来る理論的枠組を作った点で、意義が大きいものと考えられる。これらの成果の発展の上に、従来の理論では現象論的に取り入れられていた、エネルギー散逸の微視的理論の観点からの見直しが可能になると考えている。 また、第二の成果として、不純物ピンの分布する基盤上に存在する、バネで結合された1次元粒子系モデルにおける摩擦現象の解析を行った。この系については、基盤の不純物分布が周期的で、さらに粒子系の粒子間隔と不整合な場合には、最大静止摩擦力が有限の状態とゼロの状態の間の相転移(Aubry転移)が存在することが知られていた。また、最大静止摩擦力と動摩擦力の速度ゼロ極限の値との間に、トビが存在する(ヒステリシス現象)可能性が指摘されていた。本研究では基盤の不純物分布、および粒子系との相互作用の強さを様々に変化させることによって、これらの現象がコントロール出来ることを見出した。これは、摩擦現象を包括的に理解する上での大きな進歩であると言える。
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