本研究は高温超伝導体Bi2212から作成された微小な固有ジョセフソン接合におけるジョセフソン磁束のダイナミクスをc軸方向の直流磁束フロー抵抗やマイクロ波領域のスペクトル測定により明らかにし、様々な条件で制御することにより強力な電磁波の放射を検出することを目標としている。 本年度は、昨年度の研究で発見された電流電圧特性の磁場依存性において観測される自己共振モード(Fiskeステップ)に注目して研究を行った。Fiskeステップはジョセフソン接合内部で電磁波が定在しているために観測されると単一接合では説明されており、ジョセフソン磁束ダイナミクスによる電磁波の励起と解釈できる。ステップが観測される電圧から見積もられた励起された電磁波の周波数は固有ジョセフソン接合の幅に反比例し、幅2ミクロンの接合においては60Kで180GHzとなり、サブミクロン領域ではさらに高周波となる。その比例定数はジョセフソン接合中の光速であるスイハート(swihart)速度によって決定されるが、スイハート速度は真空中の光速の1/1000となり、定在波にはかなりの量のc軸方向に伝搬する成分が含まれていると予想される。固有ジョセフソン接合から真空中に電磁波を放射できるのは、ab面方向に伝搬する成分(スイハート速度は光速の1/10程度)であるので、Fiskステップをもたらしたモードにテラヘルツ波の放出を期待するのは困難である。今後の課題としては、ジョセフソンプラズマモードとの比較により、Fiskeモードを十分に理解し、固有接合からのテラヘルツ波発振に繋げていくことが挙げられる。
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