高温超伝導体を対象に、電子構造やキャリアダイナミクスに対する酸素同位体効果の観測を行っている。強い電子-電子相互作用に埋没してしまって見出されることの少なかった電子-格子相互作用の発掘を目指し、新奇効果の探求とその機構解明を通じて、高温超伝導メカニズムとの関連性についての検討を行うことが本研究の目的である。 本年度は、精密かつ系統的に酸素同位体置換を行った高温超伝導体試料を準備するための技術を確立することに、特に重点をおいた。高温超伝導体の単結晶を溶媒移動浮遊帯域(TSFZ)法により育成し、キャリアドープ量を系統的に変化させた一連の試料の用意を行った。等価な2つの試料スペースを持ち、酸素同位体ガス雰囲気だけを高度に調整できる酸素同位体置換用のアニール炉の立ち上げを並行して行った。装置は、高価な^<18>O_2ガスを有効利用するための回収・圧縮機構を備えると共に、アニール時の平衡ガス組成をリアルタイムでモニタできる四重極質量分析計を組み込んだ仕様とした。Bi_2Sr_2CaCu_2O_yの同位体置換した単結晶試料を準備し、その評価も一通り完了した。そこで、同試料を対象に角度分解光電子分光測定法により電子の運動状態への格子振動効果の検討を開始したところ、初めて準粒子バンドにおける同位体シフトの観測に成功した。シフトの様子は単純な金属電子論の予測とは一致しないことがわかったことから、相競合などの強相関電子系に特有の効果を念頭におきながら解析を進めている。なお、この成果は、科学系の学術誌で最も権威の高いとされるNature誌に掲載された。
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