本年度は、広島大学の井上克也教授による物質合成・磁化測定の研究と密接な連携をとりながら、有機透明キラル磁性体グリーンニードルの磁気構造・新奇素励起についての研究を円滑に遂行した。本物質は、わが国が発信した新奇磁性体としてヨーロッパの研究者を刺激しており、良好な研究協力体制が築かれつつある。基礎物理としての新規性ゆえ、波及効果も大きく、正しい研究課題設定ができたもめと判断される。 当該年度内に得られた顕著な業績として、当該物質において横磁場下で見られる磁化のアノマリーに対するカイラルソリトン機構の提案を行い、理論と実験の照合・検証を進めた。これによって、新奇磁気構造としてのカイラル磁気秩序状態に付随するカイラルソリトン格子という新奇構造を発掘することに成功した。この構造を巡って、電子スピン共鳴、動的帯磁率など動的プローブによる実験的な検証が進められている。カイラルソリトンが検証されれば極めて新奇な磁気構造として脚光を浴びると予期される。特に試料の透明性ゆえ、ソリトン格子と光との結合という新しい問題にも波及効果がある。 次に、磁気カイラル効果の古典論を詰め、当該物質における強大な磁気カイラル効果の可能性を指摘した。一般化されたクーン模型を用いた解析により、外部磁場を印加した非磁性キラル物質に比べて数10倍から数100倍の桁で大幅な磁気カイラル応答が期待できることを示した。この結果によって、当該物質を巡る磁気光学効果の研究に拍車をかけることができると予期している。 上述のように、当該年度内に、新奇磁気構造と磁気光学効果という課題設定に対して具体的な進展を見ることができた。次年度以降の実験研究との協力体制にも拍車をかけることができ、研究活動を円滑に遂行できたものと判断できる。次年度以降も引き続き着実に実績を蓄積していく予定である。
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